大冒険8
5月5日 (木) 晴れ
5時起床。
起きて周りを見渡すと私の他に1台だけ車中泊をしていたが、きっと夜中にここへたどり着いたのだろう。
本当にこの道の駅は人が居なくていいが、昼間の営業は大丈夫なのだろうか心配になる。
でもこの駅は蕎麦が有名らしく是非とも食べてみたいが、残念ながらまだ営業していないね。
ボーイズと周りを散策してから朝御飯。
朝焼けが美しく
今日はどんな旅になるのだろうか、毎朝ながらワクワクする。
とりあえず中国地方の山の中を、地図を見ながら狭そうな国道と県道をあえて探してそれをつなぎながらジグザグに東へと走る。
こんな山の景色が大好きで、好んで走る。
これでも国道だが、まさに酷道でワクワクだ。
写真ではわからないが右側はものすごい断崖絶壁でガードレールもなく、落ちたらイチコロだな。
勿論携帯は電波が来ていないから、なにかあったらお手上げなので緊張する。
心なしか見張りのチャイも緊張している。
こんな道はとても時間がかかるが気ままな旅なので慌てないし、走っていてとっても楽しい。
集落に出てしばらくするとウィリアムがオシッコー、と言ってきたので田んぼのあぜをお散歩。
物凄くヤバくて楽しい峠をいくつか越えて地図を見ると、とっても旨そうな鉄道が走っているではないか。
よしよし、これからたっぷり鉄分補給だ。
しかし何かおかしい。
もう線路が見えても良いはずなのに一向に見えてこない。
私は地図を見る事にはとても自信があるが、やはり私の間違いかと思い橋を渡ってから対岸を見るとちゃんとプレートガーター橋が見えるではないか。
なんだ有るじゃんと思いUターンしたのもつかの間、では何故さっき踏切がなかったのだろうかと悩みだした。
もしやこれは私にとって、最も震えがくる状況ではないかと思い、珍しくネット検索してみた。
やはりこの路線は2018年に残念ながら廃線になっていた。
私の今見ているツーリングマップルは2017年度版なので、まだこの路線は現役であった。
地図は毎年更新され1年毎に出版されるので、常に新しいのを持っていたいがそれも無駄である。
プロの運転手さんとかならやはり仕事なのでそれも分かるが。
でもこの古い地図のおかげでこの廃線跡にこられたわけで、今年の最新版の地図を持ってきていたらもう地図からはこの路線は消えているので、巡り会うことは無かったかも知れないと思うとなんだか嬉しい。
そうとわかれば廃線跡をゆっくりたどってみよう。
きっとまだホームの跡位は残っているかもしれない。
地図を見てみると近くに信木駅というのが有ったみたいなので、畑仕事をしている女性に聞いてみるが、残念ながら言葉が殆ど私にはわからなかった。
しかし感じからしてどうもこのすぐ先を下に降りていけばある様なニュアンスだったので、丁重にお礼を言って探してみる。
10時50分
信木駅跡到着
鳥肌がたった。
銘板こそないが、ホームどころか線路まで残っているではないか。
鉄道を失った地域沿線の住人には、通勤や通学で大変な思いをされている方も沢山いらっしゃるであろう。
そんな方達には私みたいなよそ者が、興味本意で廃線をうろつかれる事が迷惑で不謹慎だと思うので、できる限り丁寧な対応を心掛けている。
次の所木駅を探す為に、草刈りをしている方に道を尋ねた。
この方も仕事中にもかかわらず仕事の手を止め、とても丁寧にわかりやすく教えてくれた。
しかも今度は所木駅の入口には、最近出来たと思われるお洒落な駅入口の看板が立てられていたので、迷わずに進入。
どうもこの廃線跡を、地域住民がもり立てているような感じがしてきた。
そうだとしたら私はとても嬉しい。
11時10分
所木駅跡到着。
駅の横の踏切は道路になっている。
脇に有ったトロッコらしきもの。
きっと線路の上をこれで走れるんだな。
使途は不明。
お次は船佐駅跡だ。
幸い私の古い地図には駅が載っているので、道路の線形と照らし合わせて駅を探るが、やはり行き過ぎてしまい少し戻って探しまわったていたら、目の前に有ったのをなかなか気が付かなかった。
もうろくしたなオレ
11時20分
船佐駅跡到着
これはそのまま、まだ現役で今にも列車が来そうな佇まいだ。
駅舎もキレイに清掃されている。
駅舎の中には沢山の写真が。
駅前のロータリーには自転車置き場がしっかり残っており、今にも学生さんがやって来そうだ。
ホームから見た線路は錆びていて草ぼうぼうだが、現役の駅でも似たような光景の所は沢山あるので、今にも列車が来ても不思議ではない感じ。
ホームから自転車置き場を見ていると、何か動物がいるな。
よく見るとかわいいタヌキさんだ。
車に気を付けてなー
自転車置き場は本当に使っているのではないかと思われるほど綺麗だ。
こんな素晴らしい駅舎跡で駅寝をしてみたいが、残念ながらトイレが無いので諦めよう。
本当に心が和む光景だ。
このプレートガーター橋は数日後に撤去されるらしい。
仕方のないことだが、今日偶然ここに来られて本当に良かった。
11時30分
長谷駅跡に到着した。
この駅は簡単に見つけられたが、ここもホームにある柵がなければまさに現役そのものだ。
廃線から4年もたっているとはとても思えない。
地元の方達から、本当に愛されていたのがよくわかる気がする。
素晴らしい景色だ。
最後は粟屋駅跡だ。
見れば見る程、本当に廃線なのか信じられない。
できれば来た道を戻り他の駅も見たかったが、まだ広島の入口なのでこのペースでは帰れなくなる。
残念だがここでお別れしよう。
13時
庄原の街中でビッグを見つけたので丁度よい、酒もビールも食料も尽きてきたのでここで買い出しと昼御飯にしよう。
裏口の駐車場の木陰に停めるが、さすがに暑いので窓を全開にしてボーイズには留守番をしてもらう。
ビールにワインやら乾きもののツマミ、トドメは今晩の刺身だ。
お昼御飯のちらし寿司に非常食のカップ麺等、カゴに山ほど買い込みどさくさに紛れて保冷用の氷をもらって一安心。
これで何処でも安心して寝られそうだ。
ちらし寿司でお昼御飯。
少し休んで出発する。
ここからも素晴らしい駅が沢山続くが、3年前に単車でゆっくり見ているので横目で見ながらそれぞれを通過し、目指すは大好きな道後山駅だ。
14時20分
道後山駅到着。
あぁ、なんと素敵な駅なんだろう。
表から見ると木造モルタルの造りだ。
1936年、 80年以上も前の昭和11年に出来たこの駅舎は、当時の駅長が初めて見たときに、そのモダンな造りに驚いたらしい。
3年前にお世話になった最高の寝心地のベンチは、今も変わらずにあったのでゆっくり座ってみる。
とにかく徘徊する。
ボーイズもとても気に入ったようだ、
するとここでも自分の目を疑った。
なんと反対側のホームにパンダがノートらしきものを小脇に抱え、こちらに向かって歩いてくるではないか。
すると踏切が鳴り出し、来た列車に向かってそのノートを掲げている。
ローカル線とは思えない程沢山の乗客は殆どが鉄であろう。
皆がパンダの写真を撮りまくっている。
あっという間に列車は発車。
手前のホームには私とボーイズ。
向かいのホームにはパンダ。
周りには誰もいないシュールな光景だ。
私は思いきってパンダに話し掛けてみた。
私の質問には言葉を発せず、全てゼスチャーで答えるパンダ。
写真を撮っても良いかと聞くと、快くポーズをとってくれた。
そして駅から少し離れた所に停めてあった車に戻っていった。
うーーん、ダイヤを見ていなかったが、このダイヤで列車に遭遇出来るなんて、偶然にしても本当に運が良いとしか思えない。
もう5分位前に来ていればもう1本見られたけど、それはそれで調べてくると慌ててしまい、制約がでるのであえて成り行きにいつも任せている。
少し離れたパンダさんの車の中で、お兄さんが一生懸命汗を拭いているのが見えた。
それからおもむろにトイレに来たので、思いきって話し掛けてみた。
もう数年前からこの活動をしており、地域住民の方達とも交流してボランティア活動や清掃などをしているらしい。
やはりこの駅が好きでたまらないみたいだ。
これからも是非とも続けてくださいと激励してお別れした。
後に調べたらその筋ではかなりの有名人らしく、YouTuberでも有るとの事。
やはり私は本当になんにも知らない、ど素人な鉄だなぁ。
1時間以上も滞在して、色々と目に焼き付ける。
この駅の何がこんなにも私を引き付けるのか。
いくら見ていても飽きない。
後ろ髪を引かれる思いで出発する。
またいつか来よう。
今夜泊まる駅はもう決めた。
ここからは少し距離が有るが、明日は珍しく予定を立ててみたので思いきってそこまで走ろう。
R183を北北東へ進みまた鉄道と並走するようになると、撮り鉄さんらがカメラを構えている所を通りすぎた。
黒坂駅と言う看板が見えたので、休憩をかねて寄ってみる。
17時
黒坂駅到着。
カッコいいレクサスが停まっており、その横で私くらいの年齢のご夫婦が休んでいる。
その横に停めてボーイズにお水をあげ、お散歩をさせる。
しばらくすると列車通過のアナウンスがなったので慌ててホームに行くと、そのご夫婦も一緒に入ってきた。
このご夫婦はきっと筋金入りの鉄さんだと思い聞いてみた。
私
『なにか凄い電車でも来るんですか?』
旦那さん
『いや、さっき撮り鉄がカメラを構えていたので、なにか珍しいのが来るかと思って寄ってみただけです』
すると直ぐに特急やくもがやって来て、あっという間に通過していった。
特急しなのみたいに、前後の先頭車両が違うタイプでカッコいい。
通過後、『ただの特急でしたね』とご夫婦と顔を見合せたが、私にとってはいつもの事だがとっても嬉しい。
ご夫婦は地元の方で、今日は仕事が休みなので奥さんとゆっくりしている等お話を始めた。
定期便の長距離トラックの運転手さんで、私の住む所の近くにもよく来るらしく話が盛り上がった。
本当は奥さんとゆっくり信州を旅行してみたいのだが、仕事が忙しくなかなか出掛けられないみたいで、私の旅のスタイルを羨ましそうに見ていた。
そんなお話をして、先ほどの特急やくもから10分もしないうちに反対側のやくもがまた通過する。
嬉しい。
ご夫婦はそこでカッコいいレクサスに乗り込み、さっそうと走っていった。
私はもう少し駅を見ていたら、普通列車も見られたのが素直に嬉しい。
さて、私も出発しようとすると、駅前の小さな畑でお仕事をしていた高齢の男性が声をかけてきた。
『ワンちゃんを撫でていいか?』
私もいつものように
『勿論です。たくさん可愛がってください』とお願いした。
その方は80を越えていて、最近飼っていた犬が亡くなってしまったらしく、とても愛おしそうにボーイズを撫でていた。
私は、また飼えばどうですかと尋ねたら、
『もうオレのほうが先にいっちまうから飼いたくないんだよ』
私は、きっとまたワンちゃんを飼えば、さらに長生き出来るのではないでしょうかと無責任な事を言ってしまったが、本当にボーイズを可愛がってくださった。
ありがとうございました。
さぁボーイズ出発するぞ、今夜も少し頑張ろうな。
R482に代わり
18時
下蚊屋ダムで休憩。
カッコいいロックフィルダムだ。
地図を見ながらとても狭いヘキサゴンナンバーをショートカットしてつなぎ、暗闇のなか物凄い峠を越えて
20時15分
今夜のねぐら、隼駅に無事到着。
遠い所のナンバーを背負ったライダーが、マシンを駅前に停めて楽しそうに写真を撮っていった。
これから何処まで行くのか、何処に泊まるのか、遅い時間なので心配になるがきっと達人だろう。
この駅は15年位前に単車でお世話になったことがある。
スズキが誇るフラッグシップマシンと同じ名前の駅で、そのマシンを乗っているライダーの聖地でもある。
その時の私はどしゃ降りの中、野宿しながらここにたどり着いた。
この駅を守る会の会長さんがたまたまおられて、是非ともここに泊まっていってくれと進められ、駅の横にあるブルートレインを案内された。
私としてはそこまで言われればまんざらでもなく、お代を聞くとお賽銭方式だからいくらでもよいと言う。
本当にその方の気持ちでいいよと言うが、内心それが一番困るんですよ。
雨で疲れきっていたので、気持ちよく千円をお渡しして一晩お世話になった。
ブルートレインの中はじゅうたんが敷かれて改造されており、ゆっくり寝られる様になっていて、しかもファンヒーターまで着けてくれて、本当にありがたかった。
この駅が旅人を町ぐるみで歓迎してくれているのを知っているので、今日はどうしてもここまで来たかった。
大好物の刺身で昔を思い出しながら一杯をやり出す。
そして今日ビッグで調達した、ワンコインのお気に入りのワインで更にゆっくりやり、周りには民家が有るが静かな駅前でぐっすりおやすみ。